POLD4-RPA経路を指標とした新規肺がん治療法の開発
医学部 分子腫瘍学講座
肺がんは年間死亡者数ががん腫中で一位であり、発がん過程の解明、予防、治療法の開発が強く望まれている。近年、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤の開発によりステージの進んだ肺がん患者においても良好な治療効果が期待できるようになったが、すべての患者がその恩恵を受けることはできない。また、適切な薬剤が選択できない、2次治療以降の併用薬を含む薬剤選択根拠、出現する薬剤耐性などが課題となっており、新規経路探索とその経路を標的とした新たな分子標的薬開発が求められている。
我々の研究グループでは、これまで臨床肺がん検体の遺伝子発現プロファイル解析とそれに引き続く各種解析を通じて分子標的となりうる新規発がん経路の提唱を行ってきた。その過程で、DNA複製因子POLD4が肺がんにおけるゲノム不安定化抑制に寄与することを見出した。さらに、DNA損傷存在下において、DNA損傷チェックポイント因子RPAやその下流に位置するCHK1はPOLD4依存的にリン酸化すること、この新規DNA修復シグナル伝達機構POLD4-RPA経路活性化レベルが低い非小細胞肺がんでは、プラチナ製剤高感受性となることを明らかにした。一方で、非小細胞肺がんの大半はPOLD4高発現のためPOLD4-RPA経路活性化レベルは高く、プラチナ製剤では十分な効果が得られないことが予想される。そこで、POLD4-RPA経路分子機構についてさらに解析を進めたところ、POLD4高発現非小細胞肺がん細胞ではPOLD4-RPA経路に生存を依存しており、この経路阻害が合成致死を誘導することが明らかとなった。一連の研究結果に基づき、POLD4-RPA経路を標的とした新規肺がん治療法を提案したい。
特許・論文情報
関連文献
Huang QM, Suzuki M他Cancer Res. 2010