研究者情報
福村 和宏

RBM17(SPF45)依存的スプライシング機構で新たに発見した必須結合因子 SAP30BP の作用機序から考察する抗癌剤多剤耐性問題への画期的な戦略

氏名: 福村 和宏
職位: 講師
所属: 藤田医科大学
医科学研究センター 遺伝子発現機構学研究部門
分野: 創薬
キーワード: 分子生物学, RNA生物学, 腫瘍生物学, RNAスプライシング, 抗がん剤耐性

昨年のシーズ・ニーズ交流会では、スプライシング反応に重要なポリピリミジン配列が短 い一群のヒト・イントロンでは、 既知のU2AF依存的スプライシングではなく、 新規の RBM17 (SPF45) 依存的なスプライシングによってスプライシングが遂行されていること [1]、 一方 RBM17 は癌細胞で過剰発現し、抗癌剤多剤耐性に関与していることを報告した [2,3]

最近、RBM17 依存的なスプライシングに、 新たな補因子として SAP30BP 蛋白質を同定するこ とができ、 以下のような事実が明らかとなった [4] (1) ノックダウン実験により、 SAP30BP は、 RBM17 依存的スプライシングの必須因子である。 (2) 大規模転写物配列解析 (RNA-Seq) により、 SAP30BP RBM17 と共に、 短いポリピリミジン配列を有する一群のヒト・イントロンのスプラ イシングに関与している。 (3) 核磁気共鳴 (NMR) 解析と in vitro結合実験により、 RBM17 UHM領域が、SAP30BP に新たに発見された ULM領域と直接的に蛋白質間結合している。 (4) - リン酸化SF3B1抗体を用いたin vitro結合実験により、 SAP30BP-RBM17相互作用は、 RBM17が スプライシング活性のある U2 snRNP に含まれるリン酸化SF3B1因子に取り込まれるために必要 であると示唆される。

RBM17 依存的スプライシング反応において、 2箇所のUHM-ULM領域結合を解明しているのが 強みだ : すなわち、 RBM17SF3B1との蛋白質間結合を介してU2 snRNPと相互作用する [1] さ らにその前段階としてRBM17SAP30BPと蛋白質間結合し[4] いずれもスプライシング反応に 必須である。 RBM17UHM配列と特異的に結合する低分子化合物を、製薬会社 (未定) とシーズ 開発したい。 最近、 構造解析で共同研究しているMichael Sattler 研究室が、 UHM-ULM結合を阻 害するフェノチアジン化合物を同定したので[5]、このアプローチは有望である。 低分子化合物ラ イブラリーからフェノチアジン構造を考慮して候補化合物を選択し、 その結合をNMRによって分 析する (Sattler研との共同研究)。 結合の特異性と強度は、等温滴定型カロリメトリー (ITC) で解 析し、 RBM17UHMと最も特異的に結合する低分子化合物を最終決定する。 特異的な低分子化合 物が特定できれば、その抗癌剤耐性に対する抑制効果を培養細胞を用いて検証する。 低分子化合物 を培養細胞に導入し、 RBM17によって制御される癌関連遺伝子群のスプライシングが阻害される かRT-PCRを用いて解析する。 この低分子化合物を導入した培養細胞を抗癌剤で処理し、生存率、 増殖率、 浸潤性を解析し、実際に抗癌剤耐性を低下させることを実証する。

謝辞 :臨床病理学的意義を癌患者試料を用いて大規模に調査されている八代正和先生(大阪公立大院)、 実践的なご指導をしていただいている佐谷秀行先生 (がん医療研究センター) に深く感謝します。 


特許・論文情報

関連文献

  1. Fukumura F, et al. (2021). SPF45/RBM17-dependent, but not U2AF-dependent, splicing in a distinct subset of human short introns. Nat. Commun. 12, 4910.
  2. Fukumura F, et al. (2021). SPF45/RBM17-dependent splicing implicated in multidrug resistance in cancer chemotherapy. Mol. Cell. Oncol. 8, e1996318.
  3. 福村 和宏, 前田 明 (2021) スプライシングと抗がん剤耐性. 細胞 53,900-901.
  4. Fukumura F, et al. (2022). SAP30BP interacts with RBM17/SPF45 to promote splicing in a subset of human short introns. bioRxiv [https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.12.30.522300v2].
  5. Jagtap, P.K.A., et al. (2020). Identification of phenothiazine derivatives as UHM-binding inhibitors of early spliceosome assembly. Nat. Commun. 11, 5621.