藤田医科大学における肺癌を中心としたPDXライブラリー作成
医学部分子腫瘍学
癌研究分野においては、従来培養細胞を用いた各種研究が多大な貢献をしてきた。しかし、培養細胞はin vitroで選別・継代されているとの理由より、実際の癌を十分反映していないとの指摘がされるようになってきた。この理由から、近年、培養細胞に加えて、腫瘍の微小環境を併せ持つPDX(Patient-Derived Xenograft)使用が推奨されている。申請者はT細胞、B細胞に加えてNK細胞を欠損する高度免疫不全BRJマウス(図1)を藤田医科大学に導入し、2019年より肺癌PDX作成を開始した。呼吸器内科、呼吸器外科、病理診断科、バイオリソース室、病態モデル先端医学研究センターの協力のもと肺癌57症例をマウスに移植し、5例でPDXを樹立した(図2、別に名古屋大学で102症例より16例樹立、藤田医科大学に移管済み)。また、別に3例の胆管癌PDXを樹立(総合消化器外科との共同研究)した他、気管支鏡検査でのクライオバイオプシー由来PDC(Patient-Derived Cell、バイオリソ-ス室提供)、口腔癌由来PDC(熊本大学提供)よりもPDXを作成し、臨床検体由来PDX同様、臨床病理標本形態に類似した腫瘍組織形成することを確認した。さらに、2022年度より院内癌遺伝子パネル検査(がん医療研究センター)が実施されている。これにより、今後作成されるPDXライブラリーは遺伝子変異情報を併せ持ち、高い競争力を有することとなる。
なお、BRJマウスについては、自研究室で使用するほか、これまで7研究室/施設(がん医療研究センター、生化学、病理診断学、脳神経外科、総合消化器外科、小児外科、皮膚科)に500頭超を飼育経費のみにて提供しており、学内ニーズ対応もあわせて行っている。
樹立と並行したPDX研究につき一例を示す。次世代シークエンス(エキソーム解析)により、臨床検体と樹立PDX中の変異遺伝子は良好な相関性を示した。従来、PDXにおいてがん転移が発生することは稀とされるが(Nat Rev Cancer, 2015)、この症例PDXでは、高頻度転移が観察される 。さらに、PDXよりPDCの作成についても成功し高品質のゲノムDNAの回収が可能となった。この背景の下、藤田医科大学に近年導入されたインフラであるロングリードシークエンス解析を用いて、高転移性を説明する遺伝子/ゲノム構造変異解析準備を進めている 。
特許・論文情報
関連文献・知財等
Kondo Y et al. Ped Surg Int. 38: 1157, 2022他