研究者情報
杉浦 一充

好中球細胞外トラップにより接触皮膚炎が悪化するモデルマウス

氏名: 杉浦 一充
職位: 教授
所属: 藤田医科大学
医学部 皮膚科学
分野: 創薬
キーワード: DITRA, IL-36, NETs, 接種皮膚炎
研究メンバー: 岩田洋平・准教授、渡邊総一郎・講師、伊藤裕幸・助教、杉浦美月・助教、塚本崇子・助教、山田友菜・助教、長谷川由梨恵・客員助教
  • 接触皮膚炎の免疫反応において好中球細胞外トラップ(NET)が重要な役割を果たすことを発見した。
  • Il36rn-/-マウスで、接触皮膚炎におけるNET形成の増加が劇的に上昇し、NET形成の阻害が接触皮膚炎の抑制につながることを証明。同様の結果が野生型マウスでも得られた。
  • NET形成の阻害は、接触性皮膚炎における新たな治療戦略となる可能性を示唆した。

背景

インターロイキン-36受容体アンタゴニスト(IL-36Ra)をコードするIL36RNの機能欠損ホモあるいは複合ヘテロ接合体変異は、皮膚疾患の病因に関与しているとされている。我々は以前に、Il36rn-/-マウスが好中球の動員増加を介して接触皮膚炎反応の亢進を示すことを報告した。さらに、Il36rn-/-マウスは、イミキモドによる乾癬性皮膚病変の重症化とNET形成の亢進を示した。今回我々は、NETが接触皮膚炎反応に重要な役割を担っているのではないかと仮定し検証した。

方法

  1. Il36rn-/-マウス(KO)と野生型マウス(WT)の耳介に接触皮膚炎反応を作成した。同時に、PAD阻害剤(Cl-amidine)をそれぞれのマウスに投与し、耳介の厚さを測定することで接触皮膚炎反応に対するCl-amidineの影響を評価した。
  2. 接触皮膚炎反応を作成したIl36rn-/-マウスと野生型マウスおけるCl-amidine投与群・ 未投与群の耳介組織に対して、HE染色、免疫組織化学染色を行い、組織に浸潤している好中球、マクロファージ、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞の数について評価し、さらに免疫蛍光染色を用いてNET形成を観察することで、接触皮膚炎におけるCl-amidineの影響を検証した。
  3. 接触皮膚炎反応を作成したIl36rn-/-マウスと野生型マウスにおけるCl-amidine投与群・未投与群の耳介組織中のサイトカインをリアルタイムRT-PCRを用いて評価することで、接触皮膚炎におけるCl-amidineの影響を検証した。

結果

1. Cl-amidine投与により、接触皮膚炎反応は、Il36rn-/-マウスと野生型マウスにおいて、24時間および48時間の両時点において有意に減衰した(Il36rn-/-マウス;24時間 **p < 0.01, 48時間 **p < 0.01; 野生型マウス; 24時間 **p < 0.01, 48時間 **p < 0.01)。

2. 免疫組織化学染色と免疫蛍光染色において、Cl-amidine処理により、MPO陽性好中球、F4/80陽性マクロファージ、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞の数は、Il36rn-/- マウス(**p < 0.01) と野生型マウス (**p < 0.01) の両方で有意に減少した。また、無治療のIl36rn-/-マウスの耳組織のNET面積は、無治療の野生型マウスと比較して有意に増加し(**p < 0.01)、Cl-amidine投与によりNET形成はIl36rn-/-マウス(**p < 0.01) と野生型マウス(**p < 0.01) においてそれぞれ有意に阻害された。

3. 組織中のサイトカインの評価では、Il36rn-/-マウスと野生型マウスの両方で、Cl-amidine投与により、それぞれIL-1β、IFN-γ、IL-4、IL-6、IL-10、IL-17A、TNF-α、CXCL1、CXCL2およびIL-36γのmRNA発現レベルが有意に減少した。

結語

接触皮膚炎の免疫反応の増悪にNET の関与がある可能性が示唆された。従って、NET形成の阻害は、接触皮膚炎における新たな治療戦略となる可能性がある。


特許・論文情報

関連文献・知財等

Hasegawa Y, et al. Sci Rep 2022;12:13384. doi: 10.1038/s41598-022-16449-z.