研究者情報
内藤 裕子

ヒト特異的な異種自己抗原による慢性炎症を再現するマウスの作製と解析

氏名: 内藤 裕子
職位: 講師
所属: 藤田医科大学
医療科学部・研究推進ユニット・免疫医科学分野
分野: バイオ
キーワード: シアル酸, N-グリコリルノイラミン酸, 異種自己抗原, 免疫応答, 慢性炎症
研究メンバー: 医療科学部 教授 竹松 弘

近年、生活習慣病やがんなどに共通する基盤病態として、慢性炎症が注目されている。しかし、その免疫学的な標的については不明な点が多い。慢性炎症を引き起こす要因の一つに食品由来の成分が考えられるが、ヒトを用いた実験が不可能であることから、科学的に証明されている例はない。

我々は、ヒトでは生合成されない動物由来のシアル酸、N-グリコリルノイラミン酸 (Neu5Gc) に着目した。シアル酸は細胞表面を覆う糖鎖の末端に位置する酸性糖であり、様々な分子認識において重要な役割を果たす。種々の分子修飾を受けることが知られているが、5位の炭素の修飾に着目すると、哺乳動物においては主にN-アセチルノイラミン酸 (Neu5Ac) とNeu5Gcの2つの分子種として存在する。マウスからチンパンジーに至るまでほとんどの哺乳動物がNeu5Gcをもつが、ヒトは進化の過程でNeu5Gc生合成酵素であるCMAHの遺伝子に変異が生じており、Neu5Gcを生合成できない (図1)。つまり、ヒトにとってNeu5Gcは非自己の分子であり、免疫系では異種抗原として認識される。実際、ヒトは抗Neu5Gc抗体を有することが報告されている。一方で、ヒトは牛肉や豚肉といった赤身肉の摂取により、Neu5Gcを体内に取り込む。ヒトの糖転移酵素は、自身が生合成できないNeu5Gcも基質として利用できることから、これら食事由来のNeu5Gcが再利用され、「異種自己抗原」として一部の細胞表面に発現する。そして、異種自己抗原に対する自己免疫応答が生じ、ヒト特異的な炎症状態が引き起こされると考えられる (図2)。このヒトに特徴的な免疫応答状態が、動脈硬化などヒト特有の病態進行や疾患の原因となっている可能性が高い。

図1 ヒト特異的なNeu5Gc生合成不全
図2 Neu5Gc生合成不全がもたらすヒト特異的な炎症状態

この炎症状態の各種病態への影響を実験的に証明するためには、マウスを用いた検証が有効となる。そこで、我々が作製した、ヒトと同じくNeu5Gcを欠損する糖鎖改変マウス (Cmah KOマウス) を用い、異種自己抗原の発現による慢性炎症モデルの確立を試みている (図3)。マウスモデルの作製にあたり、①異種自己抗原発現の短期化と、②特異的で個体差のない免疫応答の誘導、が課題となる。すでに①の課題の解決には成功しており、現在、②の課題の解決に向けて研究を進めている。

図3 ヒト特異的な炎症状態を再現するマウスモデルの確立

本研究は、ヒトの疾患を念頭に置いた動物実験を行う際の基本背景とすべきマウスラインを世界に先駆けて構築するとともに、安全な食肉供給のための基盤となる知見を得るものである。


得意な技術・提供できる技術

当研究室のシーズ

  • Neu5Gc欠損マウスなど糖鎖発現をヒトに似せたマウス
  • 遺伝子編集による糖鎖改変細胞の作製

必要な技術・希望する連携

ニーズ:共同研究を募集しています

  • ヒト特異的な疾患など、ヒトにおける病態を念頭に置いた動物実験
  • 感染症など糖鎖を介した分子認識機構が関わる研究